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概要

kaigaikensyu45

? 59 ?めている。ヘルシンキ工科大学でMEG の研究を行い、読字障害を持つ子どもについて国際的にも知名度が高く、かつ数々の共同研究などを行なっている。Wydell 先生との対話の中で、日本とイギリスの医療についての違いを、実体験をもとに聞くことができた。Wydell 先生はご両親が日本に在住しているため、実父が脳梗塞で倒れられた際に、日本とイギリスの医療の質の違いに驚愕したという。イギリスの教育制度の中で医師の資格をとるためには、基本的資質としてコミュニケーション能力に関する徹底した授業が行われること、そして、多くの必修科目に対して、70 点以上という高い基準での通過が求められる。それ以下の点数は1 度までは猶予が与えられるが、2度目に関しては学部にいられなくなることが殆どであるという。これらの医師の教育制度はイギリスのどの大学も同じであり、それによって医師の高い専門性が担保されており、国民が安心して医療を受けられるという。国民の健康を支える医療制度は、日々の暮らしを安心して過ごすために必要不可欠な福祉であるが、日本における実情は安心とは程遠い。 また、最も印象的なことは、Wydell 先生自身のキャリアが、出産の後にスタートしていることだ。「日本だとそれは難しいことでしょう?一度社会の歯車から降りた人が這い上がるのは並大抵のことではないですよね」と言ったWydell 先生の言葉には、それを裏付けるイギリスの福祉制度を感じることができた。現在は大学を卒業するまでに年間で9,000 ポンド(日本円で約130 万。それでも日本の国公立と比較しても安いのだが)もかかるらしいが、Wydell 先生が大学に入った時には無料であったという。そこには進学率の増加が関係しており、以前は5%ほどだった大学の進学率は、現在50%ほどだという。国費で全ての学費を負担するのは財源の確保が難しい現状がある。日本は大学の進学率は現在56%ほどで、イギリスとは大差ないが、多くは私立大学であり、殆どの学生が高い学費を払っている。イギリスでは大学は1 つを除いては国立の大学のため、学生の負担が少ないという。教育という福祉の実情を知ることができた。(4) 訪問しての学び 大学内に発達障害の学生を支援するセンターがあることに驚いた。日本で学習障害を持つ学生が大学に入学することは非常に大変なことである。しかし、学習障害の学生は知的障害ではないため、学習環境が整うことで能力を十分に発揮できる。Brunel 大学ではそれを実践できる受け皿が整っていることが素晴らしいと感じた。また、日本の教育とは異なるカリキュラムや大学の制度を知ることができた。日本ではメンタルヘルスなどの取り組みとして学生を支援する枠組みはあっても、学習を支援するための部門は充実していない。入試制度そのものを見直す必要があるとともに、学習障害や知的機能には問題のない重度な運動障害を持つ方々への教育支援も今後の課題になる。